残業代が支払われないのは労働基準法違反です。雇用形態や勤務条件によっては、残業代が支払われないケースもあります。労働者は、労働者の権利を守るため、残業代支給の対象であるか否かを把握しましょう。必要であれば、残業代を請求できます。
本記事では、残業代支給の対象外となる雇用形態や未払いにおける対処法などを解説します。残業代の計算方法も把握できるため、労働権を守りたい方は必見です。
残業代が出ない場合労働基準法違反の可能性がある
残業代が支払われない場合は、労働基準法違反になります。労働基準法第37条において、労働時間を延長または休日労働させた場合は、割増賃金を支払う義務があると定められているためです。
労働基準法とは、労働者が適切な条件で働けるよう保護するための法律です。企業が労働者を労働させられる時間は、以下のとおり法律で定められています。
- 1日8時間
- 1週間40時間
上記の所定労働時間を超えて働く労働者の場合、残業代を受け取る権利があります。残業代が支払われない場合は、企業に対して法的措置を講じられる仕組みです。
申告を受けた労働基準監督署は、企業に対して指導・是正勧告を行います。労働権を守りたい労働者は、労働基準法を理解したうえで必要に応じて残業代を請求するのが得策です。
労働時間の定義
労働時間とは、労働者が雇用主の指揮命令下で働く時間のことです。出社してから退社するまでの時間が含まれます。作業時間や準備時間など、業務に関連するすべての時間は労働時間に該当します。
業務外である休憩時間は労働時間に含まれません。労働基準法第34条により、休憩時間も以下のとおりに定められています。
- 6時間を超えて8時間以下の労働をする場合は45分
- 8時間を超えて労働する場合は1時間
労働基準法第32条では、労働時間は1日8時間・週に40時間と規定されています。休憩時間を除いた労働時間が規定を超える場合は法定時間外労働です。
在宅勤務においても、労働基準法が適用されます。在宅勤務時の就業時間が法定労働時間を超える場合は、残業代が発生する仕組みです。労働時間を把握できない場合は、残業代が未払いになるため注意しましょう。労働時間を把握できない状況では、正確な給与計算が不可能だからです。
残業代の計算方法
残業代の計算方法を把握することで、正確な請求ができます。残業代の計算方法は以下のとおりです。
- 1時間あたりの基礎資金=月給÷1か月の平均所定労働時間
- 1か月の平均所定労働時間=(365日ー年間所定休日)×1日の所定労働時間/12か月
残業代は1時間あたりの基礎資金に、法定割増率を乗じて計算します。平日の時間外労働では25%、休日労働では35%以上の割増率が一般的です。労働時間を超えた労働は追加報酬を得る対象となります。
月給が20万円で月間所定労働時間が160時間の場合、時間給は1,250円です。時間給に割増率を適用します。25%を加えると、1時間あたりの残業代は1,563円になります。
残業時間の記録は、残業代の計算において正確性を保つために必要です。労働者が労働時間を記録することが推奨されています。労働時間を記録することで、適正な残業代が支払われます。
残業代が出ないケースがある雇用形態
残業代の支払いは企業の義務ですが、雇用形態によっては残業代が出ないケースもあります。残業代が出ない雇用形態は以下のとおりです。
- 固定残業代制
- みなし労働時間制
- フレックスタイム制
- 年俸制
- 変形労働時間制
- 歩合制
上記の雇用形態では、所定労働時間を超えて労働した場合でも残業代が発生しません。定められた給与の範囲内での支払いとされ、追加の残業代が発生しないからです。以下の職種や業界では、異なる労働時間の扱いがされる場合もあります。
職種および業界 | 残業代が支払われない理由 |
公立学校の教職員 | 残業代は支給しないと規定されているため |
監視・断続的労働に従事する者 | 労働基準法の労働時間・休憩・休日規定の適用外に該当するため |
一次産業に従事する者 | 労働基準法の規定が適用されないため |
雇用形態や職種における残業代の扱いを理解することで、適切な労働環境を確保できます。
固定残業代制
固定残業代制は、一定の残業代が支払われる制度です。残業時間と残業代が契約により定められています。契約の残業時間を超えた場合、超過分の残業代が別途支払われる仕組みです。
残業していない場合も一定の残業代が支払われます。固定残業代制により、残業代の管理がシンプルになります。管理職や専門職など、特定の職種で採用されるケースが大半です。
みなし労働時間制
みなし労働時間制は、労働時間に関わらず定められた時間が労働時間として扱われる制度です。「裁量労働制」と「事業場外みなし労働時間制」2つのタイプが存在します。
制度 | 対象になる業務 | 残業代の有無 |
裁量労働制 | ・厚生労働省令および厚生労働大臣告示により定められた業務 ・事業の運営や企画、立案などを行う業務 | 原則無し(みなし労働時間が8時間を超える場合は割増資金が発生する) |
事業場外みなし労働時間制 | 会社外で業務に従事しており労働時間の把握が困難な業務 | 原則無し(みなし労働時間が8時間を超える場合や休日労働などが発生した場合は割増資金が発生する) |
みなし労働時間制は、高度な専門性や裁量が求められる職種に適用される場合がほとんどです。みなし労働時間制により、計画的な労働が可能となり生産性の向上における寄与が期待されます。
適用には厳格な条件が設けられているため、労働者の労働時間管理が難しくなる場合もあります。長時間労働の防止や健康管理が重要です。法定労働時間を超えた場合の残業代の支払いは、制度の設計や運用によって異なります。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、労働者がライフスタイルに合わせて勤務時間を設定できる制度です。以下のとおり、フレキシブルタイムとコアタイムが組み合わさっています。
項目 | 意味 |
フレキシブルタイム | 出勤時間を自由に決められる時間帯 |
コアタイム | 勤務する必要がある時間帯 |
労働者は、月単位で集計される期間内で所定労働時間を満たすように勤務時間を調整できます。自由度の高い働き方であり、ワークバランスを整えやすいのが特徴です。
フレックスタイム制では、所定労働時間を超えた場合のみ残業代が発生します。適正な管理下における労働時間の調整かつ、労働基準法にもとづいた残業代の支払いが必要です。
年俸制
年俸制は、給料が年単位で定められている制度です。法定労働時間を超えて残業した場合は、残業代が支払われます。支払われない場合、法律違反に該当します。
年俸制の報酬に残業代を含む場合は、年俸額に残業代がいくら含まれるかを明示し、かつ労働者の同意が必要です。労働基準法の管理監督者に該当する管理職であれば、残業代は支払われません。年俸制は、専門職や管理職など特定の職種に多く見られます。労働時間を管理し必要に応じて残業代を請求しましょう。
変形労働時間制
変形労働時間制は、企業が労働時間を設定できる制度です。繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに、閑散期の所定労働時間を短くできます。変形労働時間制は、以下の4種類に分類されます。
- 1週間単位の変形労働時間制
- 1か月単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
- フレックスタイム制の変形労働時間制
企業にとっては業務の効率化をもたらしますが、労働者にとっては労働時間が不規則になる制度です。企業は、設定期間内の総労働時間が法定労働時間を超えないよう管理する必要があります。
変形労働時間制の導入には、労使協定の締結と労働基準監督署への事前届出が必須です。労働者は超過労働における残業代の計算方法を把握しましょう。超過労働が発生した際、残業代の計算方法が通常と異なるからです。
歩合制
歩合制は、売上や成果に応じて報酬が支払われる報酬形態のこと。仕事の成果に対して収入がアップするため、モチベーションが向上する働き方です。歩合制においても法定労働時間を超えて労働した場合、残業代は支払われます。歩合給の計算方法や条件は雇用契約によって異なるため、契約内容を確認しましょう。
公立学校の教職員
公立学校の教職員の労働条件は、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法によって定められています。特別措置法第3条2項では、公立学校の教職員において時間外勤務手当および休日勤務手当は支給しないと規定されています。
公立学校の教職員に残業代は支払われませんが、代わりに「教職調整額」が支給される仕組みです。教職調整額により、基本給の4%が一律で上乗せされています。
公立学校の教職員における時間外労働は、校外学習や修学旅行など限定された場合に命じられます。臨時または緊急の場合を除き、時間外労働を命じてはいけません。公立学校の教職員は、法律を理解したうえで時間外労働を命じられていないか確認しましょう。
監視・断続的労働に従事する者
監視や断続的労働に従事する者は、労働基準法の労働時間・休憩・休日規定の適用外に該当します。企業が労働基準監督署から許可を得ていれば、残業代は発生しません。許可を得ていない場合は、残業代が発生します。
監視・断続的労働に従事する者に該当するのは、疲労や緊張感の少ない職種です。マンションやビルなどの監視業務が該当します。緊急時に発動する必要がある警備員は、対象外です。
監視・断続的労働に従事する者に該当するか否か、許可の有無を確認しましょう。該当しない場合や未許可の場合においては、残業代を請求できます。残業代を請求するには、労働時間の記録が必要です。日頃から労働時間を記録しましょう。
一次産業に従事する者
一次産業に従事する者とは、自然に大きく関わる農業・畜産業・水産業などのことを指します。一次産業における残業代は支給されません。天候や自然によって仕事内容が左右される特殊な職業であるため、労働基準法の規定が適用されないからです。
労働契約で割増資金の支払いを締結している場合に限り残業代が支給されます。一次産業に従事する者に該当する労働者は、労使間での契約を確認したうえで必要に応じて残業代を請求しましょう。
残業代が出ないときの対処法
残業代が支払われない場合の対処法を理解することで、労働者の権利を守れます。対処法は、以下のとおりです。
- 社内の相談窓口に相談する
- 労働基準監督署に通報する
- 弁護士に相談する
残業代に関するルールを把握するために、社内の規定や労働契約を確認しましょう。ルールに違反していれば、上司や人事部に相談するのが得策です。社内で解決が難しい場合は、上記の対処法を講じます。
未払いの残業代を適切に請求することで、労働者の権利を守れます。正確な残業代の計算と証拠の収集は、権利を守るために欠かせない要素です。
社内の相談窓口に相談する
残業代が出ない場合は、社内の相談窓口に相談するのが有効です。社内制度を活用して問題を明らかにすることで、適切な解決を図れます。
相談窓口では、労働環境の改善および法的なアドバイスが提供されています。機密保持が保証されるため、外部に相談内容が漏れる心配はありません。該当の部署に残業代未払いが報告され、必要に応じて対策が講じられます。
労働基準監督署に通報する
労働基準監督署に通報するのも有効な手段です。通報は匿名で行え、通報者の身元が保護されるため安心して利用できます。
通報には、電話・郵送・労働基準監督署を訪れる方法があります。事前に労働時間・残業時間・勤務条件などの記録を準備しておきましょう。記録があれば、労働基準監督署が迅速かつ正確に事実確認を行い、必要に応じた対応を講じてくれます。
弁護士に相談する
残業代の問題を法的な観点から解決するためには、弁護士に相談するのが有効です。 弁護士であれば、労働者の労働環境が法律に則っているか否かを正確に評価可能です。労働基準法違反があれば、適切な対応策として労働審判や裁判への対応もサポートしてくれます。
計算された残業代が適切でない場合、法的に正しいかどうか精査してくれます。必要であれば会社に対して適正な残業代の支払いも請求可能です。労働者のみで対応する場合は細かな法的ポイントを見落としがちです。弁護士に相談することで、未払いの残業代を適切に請求できます。
»残業時間が月45時間を超えたときの悪影響と対策について解説
残業代のよくある質問
残業代に関する疑問を解決することで、労働者の権利を守れます。アルバイト・パート・在宅勤務者においては、請求時効に疑問を抱いているケースが多い傾向です。残業代の請求には2年間の時効が設けられています。アルバイトやパートにも、労働基準法が適用される事実を把握しましょう。
アルバイトやパートにも残業代は支払われる?
労働基準法により保護されているため、アルバイトやパートにも残業代が支払われます。雇用契約書や労働条件通知書で残業に関する取り決めがない場合でも、超過労働に対して適切な対応が求められます。
従業員が1日8時間または週40時間を超えて働いた場合、基本給の1.25倍の割増賃金が支払われる仕組みです。残業の記録がないケースにおいても、働いた事実があれば残業代を請求できます。
在宅勤務のときも残業代は発生する?
在宅勤務でもオフィス勤務と同様に残業代が発生します。残業代は労働契約や会社の規定にもとづいて支払われます。
在宅勤務においては、労働時間の管理および記録が重要です。記録が不十分である場合、残業代が支払われないケースもあります。業務の開始時刻と終了時刻を記録しましょう。残業代が支払われない場合は、労働基準監督署に相談するのが有効です。
残業代の請求に時効はある?
労働基準法第115条により、残業代の請求には2年間の時効が設けられています。請求権発生後、2年以内に請求しなければ権利を失う仕組みです。2021年1月に残業をした場合、残業代の請求は2023年1月までに行う必要があります。
時効を中断させる方法も存在しますが、特定の手続きが必要です。時効を中断させたい場合は、労働問題に精通している専門家への相談が推奨されます。時効期間内に残業代を請求するのがベストです。
まとめ
残業代が支払われない場合、労働基準法違反に該当します。雇用形態や勤務条件によっては、残業代が支払われないケースもあります。残業代が支払われる対象であるか否か把握しましょう。以下の場合においては、残業代を請求できません。
- みなし労働時間制が適用されている
- 固定残業代制が適用されている
- フレックスタイム制が適用されている
上記以外で残業代が支払われない場合、社内の相談窓口や労働基準監督署に相談し適切な対応を求めましょう。アルバイト・パート・在宅勤務者も残業代支給の対象になります。残業代請求には2年間の時効があるため、期間内に適切な手続きを踏むのが得策です。